大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和57年(ネ)2271号 決定

原告

株式会社オリエント

右代表者

三橋健三

右訴訟代理人

森田徳司

被告

岡運平

主文

本件を静岡地方裁判所に移送する。

理由

一本件訴状によれば、請求の趣旨として「被告と訴外岡亨間の東京高等裁判所昭和五二年(ウ)第一〇六〇号不動産仮処分申請事件について、同裁判所が同年一二月一二日被告のためになした処分禁止の仮処分決定に基づき同月一四日別紙物件目録記載の各不動産に対してなした仮処分の執行は、許さない。」との判決を求め、その請求原因の要旨は「被告(債権者)と訴外岡亨(債務者)間の当庁昭和五二年(ウ)第一〇六〇号不動産仮処分申請事件について、その本案訴訟の控訴審である当裁判所は、同年一二月一二日被告のために別紙物件目録記載の各不動産(農地)に対し譲渡その他の処分を禁止する仮処分決定をなし、右仮処分の執行は、当裁判所の嘱託により同月一四日静岡地方法務局下田支局受付第一五七八六号をもつて仮処分の登記をする方法によつて行われた。被告の主張によれば、右各不動産の真実の所有者は被告であつて、岡亨(被告の長男)ではないというのであるが、被告の右主張は理由がないのみならず、原告は、右各不動産について後記のとおり仮登記された条件付所有権を有するので、被告のなした右仮処分の執行の排除を求める。すなわち、右各不動産は、岡亨の所有であるが、訴外東亜ハウス株式会社は、昭和四七年七月二〇日右亨から右各不動産を買受け、同月二六日前記下田支局受付第一五二九九号をもつて農地法第三条の規定による静岡県知事の許可を条件とする、いわゆる条件付所有権移転の仮登記を経由し、原告は、同日同会社から売買を原因として翌二七日前記下田支局受付第一五三八二号をもつて右条件付所有権の移転の付記登記を経由した。もつとも、原告と同会社との間の売買は、真実は譲渡担保であつて、原告は同年一〇月一二日同会社から譲渡担保権の設定を受け、昭和四八年一〇月一日右担保権の実行により右各不動産に対する上記条件付所有権を取得したものである。そこで、原告は、右亨を相手方として東京地方裁判所に対し農地法第五条(仮登記に第三条とあるのは過誤)の規定による静岡県知事の許可申請手続及び右許可を条件とする上記仮登記に基づく所有権移転の本登記手続を求める訴えを提起し(同庁昭和五三年(ワ)第一三〇〇三号事件)、勝訴判決を得、右判決は、昭和五四年五月一七日確定した。原告は、右判決により静岡県知事に対し農地法第五条の規定による転用のための所有権移転許可申請をしたところ、同知事は、右各不動産について被告のための本件仮処分の登記が存在するため、申請目的実現の確実性がないとして、右申請の書類を返戻された。このように、本件仮処分の執行により右各不動産に対して有する原告の権利が不当に侵害されているので、原告は、その排除を求める。」というのである。

二そこで、当裁判所が本件第三者異議の訴えにつき、第一審裁判所として管轄権を有するか否かについて審案する。

本件仮処分の執行が民事執行法の施行前に同法による改正前の民事訴訟法第七五八条第三項、第七五一条の規定によりなされたものであることは、本件訴状から明らかであるが、民事執行法附則第四条第二項の規定によれば、本件仮処分の執行は、民事執行法の適用については、同法第一八〇条第三項、第一七五条第二項、第三項の規定によつてした仮処分の執行とみなされるから、同法施行後に提起された本件第三者異議の訴えは、同法第三八条第三項、第一九条の規定により執行裁判所の管轄に専属することになるところ、同法第一八〇条第三項において準用する同法第一七五条第二項の規定により、本件仮処分命令を発した当裁判所が執行裁判所としてこれを管轄することになるかのようである。

しかし、第三者異議の訴えは、執行の目的物につき実体上の権利を主張する第三者が、その権利に基づいて当該執行の排除を求める独立の訴えであり、執行異議(民事執行法第一一条)のように執行手続に付随する不服申立方法ではないから、本件のようにたまたま本案訴訟が繋属するゆえに高等裁判所が発した(民事訴訟法第七五七条第一項、第七六二条但書)不動産処分禁止の仮処分命令の執行に対する第三者異議の訴えにつき、同裁判所が第一審の専属管轄権を有するとすれば、その当事者は、いわれなく審級の利益を奪われることになり、地方裁判所が執行裁判所である場合と比べて不利であるし、更にその他の執行関係訴訟において、高等裁判所は第一審として管轄しない(民事執行法第三三条第二項、第三四条第三項、第三五条第三項)こととも均衡を失する。そもそも、高等裁判所は、原則として上訴について審級管轄があり、第一審の管轄は、公職選挙法、地方自治法、特許法等に例を見るように、事件の性質から特別の定めをした特殊な事件に限られている(裁判所法第一六条、第一七条。なお、第二五条参照)。もつとも、民事執行法の前掲各規定が右にいう特別の定めと解する余地は、文言上はあるが、不動産処分禁止の仮処分命令の執行に関し、その発令裁判所を執行裁判所としたのは、迅速な執行という要請があり、しかも登記だけで執行が完了することから、それが適当だからであつて、このことは、相当する旧規定である民事訴訟法旧第七五一条第二項(旧第七五八条第三項で仮処分に準用)が昭和一三年法律第一九号により追加された沿革からも明らかである。

以上のところから考えると、民事執行法第一七五条第二項、第一八〇条第三項は、第三者異議の訴えについて、審級の利益を失わせてまで高等裁判所が第一審として管轄する場合があることをも想定して規定されたとは考えられず、またそのように解すべき合理的理由は、見出し難い。

そうだとすれば、高等裁判所がした不動産処分禁止の仮処分命令の執行に対する第三者異議の訴えの第一審管轄権は、地方裁判所にあると解するのが相当であり、更にこの場合、民事執行法第三八条第三項にいう執行裁判所が、不動産の強制執行については、不動産の所在地を管轄する地方裁判所である(民事執行法第四四条第一項)ことにかんがみると、当該地方裁判所が専属的に土地管轄権を有すると解するほかはない。

三してみると、本件訴えは、前掲仮処分の執行の対象となつた不動産の所在地を管轄する静岡地方裁判所の管轄に専属するものであつて、当高等裁判所の管轄には属しないから、民事訴訟法第三〇条第一項により、主文のとおり、決定する。

(小堀勇 吉野衛 山﨑健二)

債権目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例